低身長に対する骨延長
(基礎疾患のない低身長に対する美容的延長)
イリザロフ法はそもそも骨折の治療法として登場したものですが、折れた骨をすみやかに癒合させるだけでなく、骨折に伴う変形を矯正したり、骨折により短くなってしまった骨の長さを回復させることもできる画期的な治療法です。
この骨を伸ばすことができる原理を利用して、イリザロフ法は低身長に対する脚延長にしばしば用いられてきました。短い骨が延長され、身長が高くなるという事実は非常にインパクトがあるため、わが国ではイリザロフ法が身長を伸ばす方法と同義語であるかのような誤解すらあります。

私たちは前任の滋賀県立小児保健医療センターにて先天性の骨系統疾患による低身長に対し、多くの脚延長術を手がけてきました。その過程で、延長術に対する経験を深めてまいりました。この技術は当然、疾患を持っている方のみならず、基礎疾患のない低身長の方の骨延長にも適用できます。

わが国で低身長に対する延長術を行う際の問題点は、保険診療ではできないことです。すなわち、治療に伴う費用がすべて自費となります。特に入院期間が長くなると費用が非常にかさみますので、原則として入院は2週間とし、その後は通院治療となります。両側の下腿にイリザロフ創外固定器を装着して通院することは慣れるまではなかなか大変です。多くの方は病院の近くのホテルに滞在したり、アパートを借りてそこから通院することになります。そういう意味で、生活を援助してくれる介護者がいれば理想的です。

次の問題点は、延長に伴う合併症のことです。イリザロフ法は劇的な効果をもたらしますが、その反面いろいろな合併症のリスクがあります。たとえば、関節拘縮です。下腿の骨を延長するとその上下の膝関節と足関節の動きが硬くなる可能性があります。正しい手術と適切な術後のリハビリテーションを行わなければ、膝が伸びなくなったり、足首の関節が背屈しにくくなったりします。軽度の拘縮なら腱の延長手術をすれば関節の動きは正常になりますが、拘縮が高度になると後遺症として残ってしまいます。
延長の過程で骨が曲がってしまい、下肢の変形が残ってしまうこともあります。
そうなりますと、せっかく身長が伸びても、いわゆる“びっこ”が残ってしまいます。
また延長した骨の形成が悪く、予定よりも治療が長期に及んでしまうこともありえます。

これらの合併症を最小限にするためには、治療を受ける本人の治療に対する理解と意欲が非常に重要です。治療のことを十分に理解せずに手術に臨んだり、リハビリに消極的であったりすれば延長治療は決してうまくいきません。
また、これは治療をする医師の方の問題ですが、イリザロフ法(骨延長法)に十分に習熟していない医師が治療をおこなってうまくいかないという事例は多くあります。海外で治療を受け、手術自体はそれなりにうまくいっていても、言葉の壁でなかなか詳しい経過がわからなかったり、質問したいことがうまく伝わらずに悶々としている方もおられます。

骨延長は長期にわたる、非常にデリケートな治療であり、治療者側である医師と患者様の信頼関係が非常に重要ですので、十分なコミュニケーションが取れないようではお話になりません。海外で延長術を受ける際には、手術を受ける国の言語を十分にマスターしていることが必須だと思います。

最後に低身長に対する延長術につきまとう課題として、倫理的問題があります。医学的に見てまったく健康そのものの方に侵襲を伴う手術をするわけですから、その手術の決定には本人が治療を完全に理解した上で、本人自身の意志ですべてを受け入れた上での同意をすることが非常に重要です。そのためには術前に十分に医療スタッフとカウンセリングを行うことが必要です。術後のイメージをつかむために、写真を見たり、実際にイリザロフの器具を見たりすることも時には必要となります。このような意味では整形外科手術というよりは美容外科的な意味合いが大きいかと思います。

以上御説明してきましたように、延長というものは決して簡単ではありません。今まで関節機能や運動能力にはまったく問題のなかった方が、身長は高くなったものの、走りにくくなったりすることがまれにはあり得るのです。延長によって得られるプラス面だけに目を奪われることなく、マイナス面も十分に受け入れることができて、初めて延長治療を受けるスタートラインにつくことができます。そしてすべてを理解した上で前向きに手術にのぞみ、よい結果が得られたとき、その満足感、達成感は格別なものとなるでしょう。

最後に、イリザロフ法を西側諸国に広めた功労者であるイタリアのCatagni先生が最近整形外科の国際雑誌に発表された論文の要旨を御紹介します。この論文は54名の基礎疾患のない低身長の方に対して、美容的な延長術を行った結果の報告です。

 
 The Ilizarov method for leg lengthening was used for cosmetic reasons in 54 patients with constitutional short stature.
A mean lengthening of 7 cm with a low rate of complications produced an excellent or good outcome in all the patients, including improvement in psychological disturbances related to short stature.
Those who undergo the procedure must be highly motivated, fully informed and understand the technique and possible complications.
We suggest that the Ilizarov method for cosmetic limb lengthening is a technique without major complications. However, it requires careful follow-up, and the involvement of orthopaedic surgeons who are familiar with use of the circular frame and are experienced in limb lengthening and correction of deformity for pathological conditions.
(54名の基礎疾患のない低身長の患者さんに対し、美容的な意味でイリザロフ法による下肢の延長を行いました。平均延長量は7センチで、合併症の割合は低く、すべての患者さんにすばらしい結果が得られました。低身長に伴う心理的葛藤も改善しました。手術を受ける方は、治療を受ける目的意識が高く、手術のテクニックや可能性のある合併症について理解をしていなければなりません。わたしたちは美容的な延長術に対するイリザロフ法は重篤な合併症がないテクニックであると思います。しかし、よい結果をだすためには、治療中の注意深い経過観察が必要であり、また、リング式の創外固定器の扱いに慣れた、骨延長や変形矯正術に精通した整形外科医によって手術が行われることが必須です。) 
身長を伸ばす方法
手術をご希望の方
※わかりやすい参考書として『「低身長」は手術で伸びる』をお薦めしております。

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